転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


47 基本は大事だよね



「ところで坊やは下級ポーションの作り方を知らないって言っていたようじゃが、覚える気はあるのかのう?」

「ポーションの作りかた? うん、おぼえようと思ってるよ。あとね、ぞくせいませきってのも作るんだ! ぼく、まどうぐもいっぱい作るつもりだからね」

 なんかやたらと下級ポーションを作る事にこだわってるなぁって思ったけど、元々僕も作り方は覚えるつもりだったからそう答えたんだ。
 そしたらお爺さんはニカッって音が聞こえてきそうなくらいとっても嬉しそうな笑顔をした後、声をあげて笑い出したんだよね。

「ほっほっほ。そうじゃったか。いやぁ折角将来有望な坊やが現れたと言うのにいきなり抽出なんぞ使い出したようじゃったから、基本を飛ばして上級ポーションを作るなんて言い出したらどうしようかと思って心配したわい。うんうん、じゃがきちんと基本が大事だと言う事が解っているようで宜しい」

 あっ違った、お爺さんは僕がきちんと基本から学ぼうとしてるかどうかを心配してたみたいだ。
 もぉ〜僕はちゃんと基本が大事だって事は知ってるから、そんな心配はしなくてもいいのに。

「だいじょうぶだよ。れんきんじゅつのこと、よくわかんないんだから、ちゃんとべんきょうするつもりだもん。初めからむつかしいこと、やろうとしたってうまく行くわけないからね」

 魔法だってきちんと練習したからうまく使えるようになったんだし、錬金術だってちゃんと基礎から覚えないと。
 キュアが使えたからと言ったってすぐにヒールが使えるようになる訳じゃないし、マジックミサイルが使えても当然すぐにはファイヤーボールは使えない。
 魔法と錬金術はどっちも魔力を使うんだから基本は同じ様なものだと思うんだよね。
 だからいきなり上級な事をやろうとしたって、そんなのできるはずがないんだ。

 それに。

 僕はこっそり自分のステータスを開く。

ルディーン・カールフェルト
 ジョブ  :賢者《3/30》
 サブジョブ:レンジャー《1/30》
 一般職  :魔道具職人《12/50》 錬金術師《1/50》

 たった一回ぶどうの種から油を抽出しただけで、一般職の欄には錬金術師が追加されている。
 これって僕の記憶の中にあったドラゴン&マジック・オンラインの一般職と同じなんだよね。
 ゲームの中でも一般職は各ギルドでそこにいるNPCからやり方を聞いて、その場で成功させれば1レベルが付くようになってたんだ。
 で、その後はレベルに応じたレシピを繰り返し作る事でレベルが上がってくんだよね。

 すこし違う所もあるけど僕がいる世界でもレベルの上げ方はドラゴン&マジック・オンラインと基本は同じみたいだし、多分いきなり難しい事をやろうとしたって失敗ばかりでレベルも上がらないだろうから、きちっと最初から順番に覚えてった方が一番早く錬金術が使えるようになるんだって、僕はそう思うんだ。

「ほっほっほ、いい心がけじゃ。ではそんなお利口な未来の大錬金術師に、お爺さんからいい事を教えてやろう。坊やは抽出が使えるのじゃから、本に書かれているような薬草を使った下級ポーション作りから始めるのではなく、抽出したものに魔力を付与する練習をするのがよいと思うぞ」

「下級ポーションじゃなくてもいいの?」

 さっきまではあんなに下級ポーションに拘ってるみたいだったのに、急にこんなことを言い出して僕はびっくりしたんだ。
 だからそう聞き返したんだけど、お爺さんは笑顔のまま頷いてその方がお金が掛からんからのぉって言ったんだ。

「確かに普通は下級ポーション作りから始めるのが一般的なんじゃが、これはまだ抽出ができない駆け出しの錬金術師が魔法を付与する物を一番安く得る方法だからなんじゃ。いい機会じゃから、下級ポーションの作り方を説明してやろう。」

 そう言うとお爺さんは、カウンターの下から魔道コンロと小さななべ、そして乾燥させた葉っぱを取りだした。
 そしてそのなべの中にその乾燥した葉っぱを入れてから水差しの水を入れると、魔道コンロでゆで始めたんだ。

「ほら見てごらん、お湯が茶色くなってきただろう。薬草をこうして煮ると、その成分がお湯に溶け出すんじゃ。こうする事によって薬草の中から必要なものを抽出してるって事じゃな」

 そっか、さっきなべに入れてた乾燥した葉っぱは薬草だったんだ! で、それを煮たら、下級ポーションに必要な成分が取り出せるって事なんだね。

「この茶色いのが、とけだした薬草のせいぶん?」

「そうじゃ。そしてその煮出した汁をこうして濾してっと」

 そう言いながらお爺さんはこれまたカウンターの下から取り出した目の細かい網のような布を通してその煮汁を器に入れる事によって、成分を抽出し終わった薬草などのゴミ取り除いたんだ。

「これで抽出作業は完了じゃな。どうじゃ、坊やのように抽出ができるものからすると面倒じゃろ?」

「う〜ん、めんどうって言うより、火を使うからお母さんがやるのをゆるしてくれないと思う」

「なるほど、それも道理じゃ。坊やくらいの歳ではまだ火を扱うのが早いと、ご両親なら考えるじゃろう」

 お母さんやお姉ちゃんに頼めばやってくれるだろうけど、練習をいっぱいしようと思ったらこの作業もいっぱいしないといけない。
 それってきっと大変だと思うんだよね。

「じゃが坊やは抽出が使えるからその心配もなかろうて。火を使わなくても薬草から成分を抽出して水に溶かせばいいだけじゃからのぉ」

「そっか、ぼくはちゅうしゅつができるから、わざわざになくてもいいんだね」

 これはいい事を教えてもらえたって思うんだ。
 だって本を読んで覚えてたら多分、煮出す以外の方法なんて思いつきもしなかっただろうからね。

「そうじゃ。では続きをやるぞ」

「うん!」

 お爺さんは煮出した汁に、なにかの魔法をかけた。

「この魔法は本来の行程には無いものじゃよ。本当なら冷めるのを待つところなんじゃが、時間短縮で魔法で温度を下げただけじゃからな」

 お爺さんはウインクしながら僕に今の魔法がなんだったのかを教えてくれて、その後、冷めた抽出液を少しだけ小皿のようなものに移した。
 これは多分、小分けしないで次の工程をやってしまうと全部が下級ポーションになっちゃうからじゃないかな? そしたら一度目で解らない所があった時、また最初の煮出しから始めないといけなくなるからこうしたんだと思うんだよね。

 そして僕のその予想は当たってたみたい。

「坊やはまだ付与はやってみた事はないのじゃろう? 折角じゃからここで覚えていくといい。解析ができると言う事は魔力の動きも見えると言う事じゃろうから、本を読むより実際に見たほうが覚えるのも早かろう」

 そう言うとお爺さんは両手をかざして、手の平から魔力をその小皿の煮汁に向かって放出し始めたんだ。

「コツとしては、魔力に順応しやすい物により多くの魔力が集まるようイメージする事じゃ。今回は薬草の成分じゃな。実際にそこに魔力が集まる訳ではないのじゃが、何故かこうする事で付与がしやすくなると言われておる」

 言われてるってお爺ちゃんは言ったけど、ただ漠然と魔力を注ぐよりも何かに向かって注いでいるイメージを持った方が魔力の向かう方向が決まるから付与がしやすくなるんじゃないかなぁ? 魔法を使ってるといつも感じるんだけど、キュアとかマジックミサイルでもここに当てるんだって思いながら撃つとちゃんとそこに行くし、索敵魔法だってこっちの方って決めないと発動しないから、イメージは魔力を扱うのにとっても大事なんだって、僕はそう思うんだ。

「因みに付与と言うのは後々まで使う大事な技術でのぉ、上位の魔道具作成や武器や防具へ魔法を付与する時もこの技術の応用が使われておるんじゃ。それだけに最初が肝心で、基礎の習得を疎かにすると将来にわたって苦労するんじゃが……」

「れんしゅうはだいじだよね。まほうのれんしゅうだって、ちゃんとまいにちやったからうまくできるようになったんだってぼく、教えてもらったもん」

「そう、練習はとても大事な事なんじゃ。じゃが若いもんはとにかく飽きやすくてのう、いつも疎かにしおる。それが将来に渡って影響してくるといくら言ってもサボろうとするのじゃ。それに比べて坊やは偉いのぉ」

「えへへ」

 当たり前の事をやってるだけなのに、こんなに褒められちゃっていいのかなぁ? でもお爺ちゃんは心の底からそう思っているみたいで、魔力を注ぎながらも僕の方を見てにっこりと微笑んでくれたんだ。



「そろそろ良さそうかのぉ」

 そう言ってお爺ちゃんは小皿に手をかざすのをやめた。
 って事は魔力の付与が終わったって事かな? そう思った僕は小皿を覗き込んで、

「鑑定解析」

 その液体を調べるスキルを使ってみたんだ。
 そしたらちゃんと下級ポーションと出て、そのうえこの薬品の効果も一緒に頭の中に浮かんできたんだ。
 そっか、そのスキルで薬とかを調べると、それを使った時の効果まで出て来るのかぁ。
 って、名前が同じなんだから鑑定解析の効果がドラゴン&マジック・オンラインの時と同じなのは当たり前じゃないか。

「なっ、何じゃと!?」

 そう心の中で1人漫才の様な事をして自分で自分に突っ込んでたら、お爺さんが急に変な声を上げたんだ。
 本当に急だったから僕、本当にびっくりして胸がどきどきしちゃったんだよ。

 それでねぇ、いったいどうしたんだろう? って思ってお爺さんを見ると、さっきまでのニコニコとした表情はどこへやら、口をあんぐりと開けてとっても驚いた顔をしてたんだ。

 どうしたんだろう? もしかしてまた知らない内に変な事、しちゃったのかなぁ?
 ちょっとだけ不安になりながら僕は、そんなお爺さんの顔をまじまじと見つめてたんだ。


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